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ただし、神楽苑及び神楽殿の建設に際して、熊本県立劇場側が保存会に対して強く主張したのは、完全復元した中江岩戸神楽三十三座を、末長く維持していく決意を持つことであった。
保存会が必ず守り抜くという決意を宣言した瞬間が、神楽苑神楽殿建設のゴーサインとなった経緯から、中江では村内の子供達に神楽を伝承させる意欲を盛り上げ、現在では小学生だけでも、三十三座の上演が出来るところまで進歩してきたという。
熊本県立劇場での徹夜上演の半年後、波野村にオウム集団が進出した。しかし、村民は団結して彼等と直接戦い、遂に会員を村から撤退させた。村民が今でも言う次の言葉は、村おこしにとって意味が深い内容である。
「オウムが来る半年前に、1年半の歳月をかけて村中の人が心を一つにして神楽を復元したので、その村民の心がオウムと戦い、撃退させることが出来たのだ」

 

(2)熊本県阿蘇郡長陽村「長野岩戸神楽三十三座」完全復元徹夜上演

長陽村は温泉に恵まれ、熊本市に比較的近いために、立地条件としては極めて良好なはずであるが、かえって熊本市や中間にあってベッドタウンとして急速に発展している大津町に人口が流入してしまうに二者択一の立場に置かれている村である。
さらに長期間に及ぶダム工事が村内で行われており、近い将来に村が部分的変形を余儀なくされる状況に置かれている。
村には東海大学の研究所もあり、かつては中央資本のレジャー施設や温泉センター、あるいは進出した菓子工場もあり、県内の村としては、村長の努力もあって、明るい面が表に出ている印象を受ける村である。
村の信仰の中心である長野神社には、長野岩戸神楽三十三座が伝承されていたが、波野村の岩戸神楽が歌舞伎的演劇的であるのに対し、同じ岩戸神楽でも長野岩戸神楽は激しい舞踊が中心となる言わばバレー的神楽であり、ひとたび笛太鼓が鳴ると、床板を踏み割るほどの強烈な踊りが、休むことなく続けられるところに特徴がある。
このため40才以上では舞えそうもないとする通念があり、過疎傾向がこれに輪を掛けたまま、急速に衰退していった。
その中にあっても、昭和63年夏の熊本県立劇場の復元呼び掛けには、大きな賛意を示していた。
能と神楽はもともと兄弟のような間柄であるため、能と神楽を同じ舞台で一挙に上演するのは、日本の芸能のプロデューサーやディレクターならば誰しも夢みるところであるが、両者が同一地域に完全な形で存在している土地はなかった。

 

 

 

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